この街の住人たちには、自分を偽る暇も金もない――。
他人には見えない電車を毎日運行する六ちゃん。夫を交換し合って暮らす勝子と良江。血の繋がらない子供を五人も養う沢上良太郎に、自宅に忍び込んだ泥棒をかばうたんば老人。誰もがその日の暮らしに追われる貧しい街で、弱さや狡さを隠せずに生きる個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ「人生派・山本周五郎」の不朽の名作。
Audibleで。
悲喜劇が入り交じった物語なんだけど、語り口が滑稽で、悲壮感はなく。
作者があとがきで、それぞれのキャラクターに愛着をもったと語るように、見守る目線が温かいという印象を持った。こちらも自然とそうなった。
今、このキャラクターが何を考えているかという、心情が細かく描写されることはないんだけど、
所作のひとつひとつから「今こういう気持ちなんだろうな」が伝わる。
がんもどきなんかは、かつこの生い立ちとか育てられ方を考えると、気持ちの理解がすっとできたし、話の締め方も明るい期待ができると感じたんだけど、作者の意向はどうなんだろう。
全部愛着のわく話だったが、特に好きな話は「街へ行く電車」「僕とワイフ」「たんばさん」